眠たくなるには

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水琴窟/やすいくんお誕生日おめでとうポエム的なもの

・やすいくんおめでとうという気持ちのポエム
・おたくの変なフィルターがかかってます

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少年はひとりだった。
思えばはじまりから、ほかとは違っていたのだ。
皆が通るはずの試験がなかった。同期という存在がいなかった。入ったばかりの皆は、揃って子供だった。見た目だけの話ではない。
少年は、多分少し遅かった。少年と同い年のひとたちは、ある程度の位置にいた。
入ったばかりの少年と、同い年のひとたちとは、わかりやすく線が引かれていた。
唐突に、夏の夕立のように現れた少年。
彼は自分の異質さに、どこまで気付いていただろうか。

少年はひとりだった。
背中を預ける人が、隣にいる人が定着し辛かった。
ある程度露出が増えると、皆ユニットという名前がついた。仲間が出来た。
少年は片割れを何かに奪われては、また一人に戻っていた。

少年はいつしか、したたかで「できる」人という立ち位置に収まった。
それは彼の人懐こさのせいであり、真面目さの結果であり、ひとよりも多い、慈愛の数のせいだった。
少年はそのうち青年になった。
青年は皆より大きな期待をかけられることになったけれど、その期待に応えられるだけのポテンシャルをもっていた。
「できる人」という評価は周りの目に靄をかけた。
もしかしたら、聖人君子というわけではなかった。
もしかしたら、不器用なところもあった。
思ったことが顔に出たり、うっかり口をすべらせてしまうこともあった。
けれどそれらは大体、うやむやのうちに消えていた。
皆が、本当の青年を見ないふりしているようだった。

青年はたくさんのものをもっていたけれど、いつもひとりだった。
誰も、青年のいちばんになってはくれなかった。
皆、通り過ぎていく。
青年を見ているひとの中には、青年にも仲間が、ユニットがほしいと思うひともいた。


去年の夏も、青年はひとりだった。
喧噪と汗と涙と笑顔をいっぱいに詰め込んだ小箱で、青年は声を張り上げていた。
青年は躍起になって仲間たちを見ていた。
司会という役割を与えられた少年は、火花を散らす仲間たちの一喜一憂を間近で見ていた。
代わる代わる変わる出演者。
けれど、青年はひとりだった。
ひとりで、ずっとあの小箱に閉じ込められていた。
皆が自分に精一杯で、誰も青年のことを見ていなかった。
与えられた職分を果たすために声を張り上げ続けたら、声は枯れた。
苦しくても、青年はひとりだった。
皆が笑いながら、泣きながら、悔しそうに、嬉しそうに抱き合っているのを見続けた。
隣に人はいなかった。
あの小箱に青年は縛りつけられた。
青年はその小箱で、どうしても主人公にはなれなかった。

今年の夏、青年は主人公になった。
仲間ができたのだった。
年が離れた彼らは幼かった。
このチームの中では、皆とフラットに付き合いたいと思った。
だから、敬語をやめさせた。言いたいことを言い合えるように。
仲間は「謙ちゃん」と呼びかけてくれた。
青年は気付いた。
もう一人で戦わなくてもいい。
ためしに寄り掛かってみた。チームはみんな青年を支えてくれた。
行き場のなかった青年の重みは、4等分された。
皆、青年に寄り添ってくれた。青年に似た背丈の、ちいさな5人組は、事あるごとにぎゅうとくっついた。

青年はひとりではなくなった。

「俺を信じて」

青年は本番中のステージでそう呟いた。
仲間が皆、自分を見ている。
「謙ちゃん」と名前を呼びながら、皆が応援している。
一緒に戦っているんだというほの昏い興奮。
去年見ていた光景がリフレインする。この視界は、知らなかったものだ。
上がる呼吸。心音が大きく聞こえる。
けれど仲間は、青年の行く先で待っていた。

一瞬の間。
あがった歓声と、拍手の波。
2度失敗して、3回目のチャレンジの結果だった。
迎えられた仲間にむかって、青年は笑った。
悔しさも綯い交ぜにして、泣き出しそうなのを堪えた。

マイクをもって、青年は「いつも」に戻る。
フラットで、しっかり者で、まとめ役の「安井謙太郎」に。
けれど、そのときは違った。
興奮がまだ身体にまとわりついている。
いつもの癖で、3回も挑戦したことを謝ろうと、礼を言おうと客席に向き直った。
「ほんとみんなあり、」
言葉が詰まる。
この礼を言うのは、こっちではない。
一瞬の間。
青年はあわてて、隣にいた仲間に向き直った。
「ありがとう、」
声は震えた。仲間たちは笑って、青年を抱き支えた。
いつも、が剥がれた瞬間だった。
ひとりじゃないとはこういうことだった。


青年はひとりではなくなった。
喜怒哀楽を仲間と共有する夏が始まる。

Happy Birthday!

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やすいくんの24才のスタートがEXでよかった!
最高の滑り出しっすね!(byじんちゃん)
仲間と一緒にどこまでもいってください!